【研究会研究発表】
【多文化共生と英語教育研究会】14 時 00 分~14 時 45 分 司会 岡戸 浩子 (名城大学)
1.小学校英語教科書におけるジェンダー・イメージの分析 石川 有香(名古屋工業大学)
2.TOEIC 教材の掲載写真映像における DEI 視点の分析 吉川 寛(中京大学)
概要
1.グローバル化が急速に進む日本社会では、他者と協働することができる「多文化共生力」の重要性が
高まっている。英語教育においても、単なる英語の知識や技能の育成にとどまらず、ステレオタイプ
を脱し、多様な価値観を受け入れる力や、多角的に物事を捉える力を育成することが喫緊の課題と
なっている。しかし一方で、学校教育の場には依然としてさまざまなステレオタイプが根強く残っ
ていることが指摘されている。特に,教科書は,学校という「権威」の中で使用され,一般的に,「正
しい」または「標準的な」価値観を提示していると考えられている。学校でも家でも,1 年をかけて
繰り返し読まれ読まされる教科書が児童に与える影響は大きい。そこで,本発表では,多文化共生力
育成の観点から,英語教科書に現れるジェンダー・イメージを分析する。
小学校英語教育は 2020 年に必修化され,小学校英語教科書は 2024 年に改訂されている。2 種類の
教科書に使用されているイラスト・写真を調査した結果,男女のイラストや写真の数には大きな差
がなく,男女平等に配慮された構成となっているものの,詳細な分析からは,女子児童・男子児童の
描写,女性教員の描写,一般的な女性・男性の描写には,ジェンダー・ステレオタイプが散見される
ことが明らかになった。ステレオタイプは人の判断や行動に深く関わるが,我々は,自分の中のステ
レオタイプには気が付きにくい。教育に携わる者すべてが,教科書の内容や視覚表現に対してより
敏感でより批判的な視点を持つことで,多文化共生を実現する教育環境の構築が可能になると考える。
2.DEI(Diversity, Equity, and Inclusion)の視点から、TOEIC 教材における掲載写真映像の分析を試みた。
TOEIC は米国の非営利団体 ETS が提供する非英語母語話者の国際コミュニケーション力を調べるビ
ジネス系英語能力検定試験である。2016 年の受験者数は世界 150 カ国 700 万人で、その内日本人が
250 万人、韓国人が 200 万人となっている。日本では、高得点が入社条件、昇進条件、受験条件、進
級条件などに利用されている。特に、企業の英語検定試験の利用度(複数回答)では、TOEIC 97.5%
で、英検 12.2%、TOEFL 6.1%と比べて群を抜いている。日本人ビジネスパーソンが商談などで、英
語でコミュニケーションを行う相手の 80%はアジア人と言われていることが、英検や TOEFL より
TOEIC が好まれる理由であろう。
上記のような TOEIC の特徴を前提として、某 TOEIC 教材の 30 枚の掲載写真映像を DEI の視点か
ら分析を行った。その結果、①登場人物の人種的な偏り、②撮影場所の偏り、③登場人物に男女役割
分担の傾向、④(白人)男性優位の暗示、等の分析結果を得た。この結果から、分析対象とした TOEIC
英語教材は、充分に「脱ステレオタイプ化」、「公正性」の概念が採り入れられているとは言いがたい
と言える。恐らく、出版社の意向、写真映像の版権など著者への縛りはあると思うが、公正で偏見の
ない国際コミュニケーションの構築を目的とする TOEIC 教材が求められる。
<石川有香資料>
2024年度に使用されている小学校英語教科書のイラスト内容をまとめたデータベースEDIT_Elem(version 1)
http://language.sakura.ne.jp/y/gender/ETID_Elem_20241005.xlsx
2016年度に使用された中学校英語教科書のイラストの内容をまとめたデータベースEDIT(version 1)については,こちら。https://ishikawayuka.blogspot.com/2020/03/gender-and-english-education.html
また,同様の方法で,韓国の中学校英語教科書のイラストの内容をまとめたデータベースは下記になります。KATE-EDIT (version 1) https://ishikawayuka.blogspot.com/2020/07/kate-2020-korea-association-of-teachers.html
いずれもプロジェクトは進行中で,追加修正が行われます